「1枚のブラウスができるまで」第3回
aoの服は新潟県糸魚川市の縫製工場で1枚1枚作られています。
歩いて海まで行けるその工場では、1枚のブラウスができるまでの工程に何人もの技術者が携わっています。
繊細にミシンを扱う手と、家族のために毎日の食事を作る手と。
海辺の町で働き暮らす彼女たち(時に彼たち)が、プレミアムラインbisシリーズの「タックバルーンスリーブプルオーバー」を作り上げていくストーリーをお伝えしていきます。
第3回
裁断
縄井明美さん・50代
第3回ではいよいよ実際の製品づくりに入ります。<裁断>という、布を裁つ作業です。
裁縫をされるかたなら、1着ずつ型紙を当て、チャコペンシルで下書きをし、ハサミで切るという作業を想像されるかもしれませんが、aoの工場ではそれを30~1000着単位で行います。となると、手作業では追いつかないのでC A M (computer aided manufacturingの略)という機械の出番。これは第2回の川原さんのCADから送られるパターンデータと対になって作動する、コンピューター制御の裁断機。それをオペレーションするのが、今回の縄井明美さんです。
---これがCAM。パソコン上のパターンと同じように、右の裁断機が高速で裁断していきます。
CAMの登場で様々な生地の裁断が可能に。
「パソコンなんてかまったことないし(触ったことがない、の方言)、マウスの使い方もわからなかったんです」。1番下のお子さんが小学1年生のときに縫製工場に入りました。当時はまだCADとCAMの導入期前で、パターンづくりも手作業で行うこともあったそう。
CAMの機械は、まず50枚程度重ねた生地とパターンの上に透明のビニールシートを掛け、下からバキュームで吸引して固定します。そして機械にパターンをスキャニングさせて、メス(ハサミ)によって裁断をします。このことでさまざまな生地を扱えるようになり、今では全国の生地産地の特色を生かしたaoオリジナルガーゼは20種類以上となっています。aoのガーゼのようにふんわりした素材も圧縮固定することで、安定して裁断ができるようになったのです。
---CAMオペレーターはまず生地の大きさを機械に読み取らせます。赤いポインターが四隅のひとつを認識しているところ。
---生地にメスが入ったところ。「メスは何メートルごとに1回刃を研ぐ」などの動作指示もコンピューターで行う。
---上は裁断されブラウスのパーツになる生地。下はパーツが抜かれた後の生地。
切ったらおしまい。確認確認の裁断作業。
裁断の前工程には、何メートルもの原反(生地メーカーから納入された状態の巻物状の生地)を運んで、引っ張られていた生地を緩める放反作業があるなど「男性の仕事のイメージ」を持っていたという縄井さん。
でもCADとCAMの導入で多くの枚数を一度にできるようになった分、力仕事ではないものの、ひとつでもミスがあると、すべての生地が無駄になるという怖さが生まれました。「簡単にメスは入れられないんです。切った
らおしまいです」。普段穏やかな縄井さんが強く言ったひとことです。
絶対に自分ひとりでは判断しない、第三者にチェックしてもらう。不安に感じていることほど現実になってしまうから、一呼吸おいて再確認してから作業する。それだけ細やかに作業しても、家に帰っても間違っていなかったかが気になってしまい、土日でもつい工場に出てしまう。そんな縄井さんの姿をaoの社長も時折見かけていたそう。
ハンガーに吊られたときの美しさにほっとひと息。
男性の仕事だと思われていた裁断の担当に縄井さんが入ったことは、こういう慎重さが必要だったからかもしれません。仕事を始めて18年経ったいまでも変わらない、慣れきってしまわない気持ちがあるのです。
---CAMで自動化されたとはいえ、まだまだひとの手で裁断をしないといけない細かなパーツもあります。
仕事で達成感があるのは、柄合わせが難しかった生地が、縫製を経てハンガーに下がっていたときにピシッと美しく揃っていたとき。でも「うれしい」よりも「ほっとする」という言葉がつい出てしまうのが、縄井さんの人柄。
「確認確認」ーーそう言いながら、それでも毎日何百着もの生地を裁断していく職人なのです。
---下は縄井さんのハサミ。目印に各自布を巻いています。手で裁断するときにはマイハサミを使用。切れ味が損なわれないよう、定期的に職人に研いでもらいます。
【personal data】
一緒に暮らす人:夫、子供(4人兄妹で3人はすでに独立)
出身地:糸魚川市能生地区
趣味:ガーデニング。やさしい感じの小さな花が好み。
特技:バトミントン。若い頃は県大会にも出場。
得意料理:ロールキャベツなど季節の野菜を使った料理。
一押しのaoアイテム:アオTシャツ。軽くて肩がこらない。
【今日のお弁当】
第1回登場の湯尾さんにもらった手作りコンニャクの煮物。裏山で採れたきゃらぶき。焼き鳥は冷凍食品。玉子焼きは出汁と砂糖の甘い派。
---
取材・文:村岡利恵(HÜTTE muumuu)
『フィガロヴォヤージュ』『Hanako』などの編集に携わる。2017年の初夏から長野県大町市の高瀬渓谷の別荘地で「HÜTTE muumuu」という朝食限定のカフェと編集&デザイン業を営む。www.huttemuumuu.info
*次回更新は9月29日(金)を予定しております。
▼これまでの記事はこちらからご覧ください。
⇒第2回
⇒第1回